Description
ムスクという香料の名は誰でも耳にしたことがあるでしょう。しかし今日、本物のムスクの香りを体験できるのは、幸運に恵まれたほんの一握りの人々だけです。
ムスクはかつて、王や皇帝だけがまとうことを許された香りでした、。庶民は、権力者たちが通り過ぎたあとの残り香を楽しむことしかできなかったのです。ムスクは香水の原型です。その力は嗅覚を刺激するだけではありません。心理にも影響を及ぼし、また薬理作用も持ち合わせています。インドのユナニーやアーユルヴェーダといった療法では、蜂蜜やルビーの粉末などと混ぜ合わせて、消耗した活力を回復させるための強壮剤として現在でも用いられています。
ムスクは強力な媚薬であると言われます。事実、ひじょうにアニマリックで体臭をも連想させる芳香は、異性を惹きつける肉体的な魅力を高め、これをまとう人に(一国を治める王のごとく)堂々と振る舞う大胆さと自信、そしてスピリチュアルなエネルギーを与えます(ムスクはイスラムの聖人の香りとされています)。
この香料は、ヒンドゥ・クシュ山脈からヒマラヤ山脈にかけて棲息する定住性の小型の鹿、ジャコウジカの雄から採取されます。ジャコウジカは、下腹部にある睾丸に似た香嚢から分泌されたゼリー状のムスクの小さな塊を落として、縄張りにマーキングします。
繁殖期になると、雌を惹きつけ、ライバルの雄を追い払うために、自分に関するあらゆる情報(年齢、健康状態、遺伝的性質)が含まれた匂いのメッセージであるこのムスクが豊富に分泌されます。しかし、このジャコウジカは絶滅の危機に瀕しています。密猟者はジャコウジカを撃ち殺し、本来ならシカ自身が生きているかぎりムスクを産出し続けるはずの貴重な香嚢を切り取ってしまいます。
当然のことながら価格は高騰しており、市場には贋物も多く出回っています。中国では、シカを殺さずにムスクを採取できる飼育場も造られています。ただ、そのような方法で採取した香料は、天然のものより質が劣るとされています。
フレグランスとしては、小さな塊をそのまま髭や髪にこすりつけるといった方法で使われていましたが、このような使いかたができるのは、偶然にムスクの塊を拾った少数の恵まれた人々だけです。しかもムスクの強烈な香りは、誰でもずっと嗅いでいられるというものではありません。そこで調香師は、希釈したムスクを“魔法の”香料として調香に組みこむようになりました。彼らはムスクの塊をアルコールに浸し、さまざまな濃度のティンクチャーを作って使います。
ほかには、サンダルウッドのエッセンシャルオイルに最短で一年(理想的には五年)浸すという手法もあります。ムスクとサンダルウッドの香りはよく似ており、互いのよさを引き立て合うため、これもムスクの芳香を引き出すのに最適な方法の一つです。
イスラム文化では、ムスクは地上でもっとも純粋で高貴な物質と見なされています。
ムスクの計量
AbdesSalaam Attar
香道(La Via del Profumo)
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